2010年2月5日金曜日

MeSHのコンセプト(1)

MeSHのコンセプトを一言で言うと、「高等教育のための、シミュレータをベースとしたマルチメディアe-Learning」です。
それって何だ?と思われた方は、ちょっと話が長くなりますがおつきあいください。

MeSHは、e-Learningと言う単語を使っています。e-Learningと言うと、通常はコンピュータベースの自学自習システムを指しますが、MeSHでは対面授業もサポートします。

e-Learningと言う単語の守備範囲は広いです。元々は学習状況(いつ、誰が、何を学習したか?その講義を受けた後の確認試験で何点だったか?)を記録し、教育者が学習者全体の理解度を管理することが目的となっていました。その後、ある学習者がつまづいた箇所を調べたり、授業中にリアルタイムで意見を求めたり、iPdoなどで講義動画像を見せるだけだったり・・・とありとあらゆることがe-Learningの範疇に入ってきました。一方、授業の様子は?と言うと、コンピュータを活用する授業が少しだけ出てきた以外は、何ら全く変わっていません。

前述のiPodへの講義動画配信などは、単純に黒板を背にして講義している姿が手元のiPodで見られますが、講義そのものは全く変わっていません。そのようなスタイルであらゆる学問領域をカバーできるか?と聞かれると、「文系科目ならできるかもね」と答えています。何故かと言うと、理工系科目の多くは、学習者が自分で手を動かさないと理解できないことが多いからです。数式の展開とか、構造の図式化とかが相当します。最も分かりやすい例は演習とか実験科目です。

授業スタイルの話に戻すと、理工系の科目で取り扱う題材は、教育者は深く理解していても、学習者にとっては未知の領域であることが多いです。さらに、教員は授業のやり方などを一切勉強していません。そのため、教員の説明は、得てして飛び飛びになったり、前提となるはずだが説明が抜けていた箇所を後の方で説明したり、学習者の理解レベルが分からなくて説明を飛ばした箇所が重要なポイントになっていたり、教員の頭の中では図・式・対応する現象が溢れていても学習者の頭の中にはクエスチョンマークが飛び交うなんてことが展開されています。もちろん、全ての先生がこのような授業をやっていると言うつもりはありません。説明の上手な方もいらっしゃいます。しかし、私のように説明の下手な教員がうまく説明するために、何かできることはあるでしょうか?

ポイントをまとめると、理工系では
  • ただでさえ、理解に時間が掛かる
  • その上、先生の説明していることがよく分からない
  • 話していることを見てみたい
と考えている学生がいます。学習者に図式化して提示するために黒板があるのですが、直線や円を描くのが難しかったり、動きを見せられなかったり、見えない現象の説明には限界があるし、パっと描くには複雑すぎたり、パラメータの変化による現象の変化を示すには描くのに必要な時間も場所も不足するなどの問題があります。

そこで、
  • 写真やビデオ
  • 音声
  • パソコン上でリアルタイムに演算した結果
などを用意して、まず学習者に提示することで、理解を促進させることができます。

ここで、多くの現象はコンピュータによる解析が進んできています。さらに、コンピュータの計算速度はものすごい勢いで向上してきています。現行品として売られている最も低性能のパソコンでも、一昔前のスパコン並みの計算速度を持っています。実際にパソコンに自作のプログラムを入れて、複雑な演算を行わせても、ほぼ一瞬で計算が終了します。このように、理論に従って計算し、図(静止画・動画)、音声として学習者に提示するプログラムをシミュレータ教材として定義しています。さらに、上に挙げた「図」「写真やビデオ」「音声」「シミュレータ教材」をプレゼンテーションソフト(具体的にはPowerPoint)で統合した教材をマルチメディア教材として定義しています。

マルチメディア教材を授業に取り入れることにより、学習者は説明内容をイメージングできます。なおかつ、教科書や参考書などではページ数の都合で、現象の条件すべてについて図示することができませんが、シミュレータ教材であればパラメータを変えることで、いくらでも図示することができます。

「そんなの、Mathematicaを使えばいいんじゃない?」って意見もあるかと思います。Mathematicaを頭から否定することはしませんが、以下の点を問題視しています。(私自身はMathematicaを知らないので、間違いがあればご指摘ください)
  • Mathematicaをコマンドラインで扱えないと何もできない
  • パラメータの変更に時間が掛かる
  • ちょっとしたパラメータ変更時などで入力ミスをすると、その後に影響が大きい
  • 音を合成できない
  • 実行時にMathematicaが必要
  • グラフ化して見栄えが悪い場合に線の色などを変更できない

グラフィックに強い(手間が掛からない)言語を使うべく、シミュレータ教材は主にVisualBasic6.0(以下VB6)で書いてきました。VB6は、グラフィックを手軽に扱え、グラフ描画に必要な仮想座標も扱える等の点で良い言語でした。「Fortranは?」って人もいるかもしれませんが、虚数は実数部と虚数部に分けて計算することで回避できますし、行列演算などはループを使えば良いので、演算部分はどんな言語でも大差ないです。演算速度を問題にする人もいるかもしれませんので少し説明すると、例えば演算速度が100倍違ったとします。でも、最近のパソコンはすでに高速なので0.0001[sec]と0.1[sec]の違いしかないかもしれません。授業で扱うような題材は、わかりやすさを優先して理論単純化することが多いので、その程度の計算時間のものが大多数を占めますので、概ね問題ありません。

マルチメディア教材を授業に取り入れたのは、1997年からでした。当時のパソコンの性能はと言いますと、CPUが200MHz、RAMが64MB、HDDが数GBぐらいの時期です。VisualBasicも5.0だったかもしれません。ノートパソコンのスペックは、それよりも数段劣りますし、プロジェクタも部屋を真っ暗にしなければならない時代でした。パソコン、プロジェクタ、スピーカを担いで授業を行いました。その甲斐あって、学生からは分かりやすいとの意見を貰いました。期末試験の結果も、特に論述問題に関して大幅に向上しました。ただ、計算問題については、学生自ら手を動かして確認することの重要性を確認しました。

マルチメディア教材は、以下の特徴を持ちます。
  • 分かりにくい理論の説明に役に立つ
  • シミュレータ教材や他のメディアを統合したマルチメディア教材
  • 見せてあげることで現象を把握できる
  • 学習者が手を動かすことは重要

長くなりましたので、今回はここまでにしておきます。 このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント:

コメントを投稿