2010年2月9日火曜日

MeSHのコンセプト(3)

MeSHの目指したもの

元々は自学自習用のe-Learningのために、様々な技術を経てたどり着いたのが、Webブラウザ上で授業を行うという仕組みです。これにより、授業で使用するコンテンツと自学自習で使用するコンテンツを統一できます。また、教員の行った操作を逐一サーバに転送することにより、教員の動画像と同期して自学自習用コンテンツを動作させるための操作情報の取得が可能となります。

さらに、教員の操作情報をサーバに転送する機能を応用すると、演習室のような環境で、学生の使用しているコンピュータ上に、プレゼンデータやシミュレータを提示することが可能となります。単に提示するだけならば良くある(映像を使った)授業支援システムと同じです。しかし、MeSHで取り入れた操作情報のみをやり取りする方法では、学生の使用しているコンピュータ上でも実際にシミュレータが動作することになります。そのため、教員がシミュレータを操作しながら一通り説明した後に、「それでは、各自操作してみてください」と、即座に学生に実験環境を提供することが可能です。

実験の補助としてのMeSH

コンセプトの説明の冒頭でも述べましたが、理工系大学の教育には、実験・実習が欠かせません。しかし、実際に実験器具に触れる機会というのは、それほど多くありません。学生数に対して実験機材が少ない場合や、管理の都合上利用できる時間が限られることなどが原因です。

もちろん、実際に実験装置に触れることは重要です。しかし、実験装置の前に立ち、いきなり操作しろと言われても戸惑うのは当然です。そんなときに、模擬的とは言え経験があれば、操作に対する熟練に要する時間は節約できます。その分、実験に費やす時間が増えることでしょう。また、MeSHであれば、シミュレータの提供にとどまらず、教員の解説や模範操作まで提供可能です。

理論確認のためのMeSH

複雑な実験器具だけではありません。書籍などで解説されている理論を、その場で確かめてみたい、とか、何らかの理論から導かれたグラフを、パラメータを変えて変化を見たい、などの願望に対して、これまでなら自分で計算して確認することしかできませんでした。もちろん自分で計算することは重要です。しかし、全ての理論について計算を行っていたら、とてもじゃないですが時間が足りません。そのような場合にシミュレータを用いることで、体験的に理論を確認できます。単純な疑問をその場で解消することで、理論の深い部分に目を向けることが可能となります。このように、深い部分に到達するマイルストーンとして、分からない箇所を気づかせるということが重要だと考えます。ここで少々脱線して、経験を踏まえた与太話をします。

実は、授業で教えた内容を学生に確認すると、「分かりません。」「どこが分からない?」「全部分かりません」と言った会話が繰り返されます。全部分からない学生に深く話を聞くと、その授業を履修する前提となっている知識が不足していることに気づかされます。しかし、さらに深く話を聞くと、実は前提となっている知識が身についているにも関わらず、対象としている内容に結び付けることができていないことが多いです。

つまり、こう言うことです。
理論A: その授業で教えたい理論
理論B: 理論Aの基になっている理論
理論C: 理論Bの基になっている、ものすごく基本的なことので説明しない理論

説明内容:
「Cを基にしてBが成り立ちます。その条件・式の展開・応用範囲はこれこれこう言うことです。さらにBを深く見ていくと、これこれこう言う場合にはAということになります。」

授業終了後:
私:「今日の所は簡単だったから分かったでしょ?」
学生:「分かりません。」
私:「Bは分かる?」
学生:「分かりません。」
私:「Cは分かる?」
学生:「分かりません。」
私:「Cって、○○の授業でやったと思うけど、××ってことだよ。(などと数分にわたって説明)」
学生:「あぁ、それなら分かります。」
私:「そうそう、それを応用するとBなんだよ。さらに応用するとAなんだよ。(などと数分にわたって説明)」
学生:「なぁんだ。最初からそうやって説明してくださいよ。」

もちろん、こんな簡単に話が進みませんが、雰囲気だけは伝わったと思います。教員側・学生側問わず、誰でも一度ぐらいはこのような経験があるのではないでしょうか?ここで、「ゆとり世代」などと一言で片付けては、教育界に未来はないと思います。この学生に何が不足していたのか?と考えた結果、教えられたことに関してイメージをふくらませて「把握」することができなかったのだと思います。しかし、試験やレポート課題になっているため、とにかく丸暗記してやり過ごし、頭の片隅には残っているけど、同じ聞き方をしないとその記憶がよみがえらない、という状態です。例えが合っているか分かりませんが、歴史の授業で試験に出るからと言って、年号と起こったことを丸暗記するのと同じ状態です。

本来なら、授業で教わったことが、より広く・深く結びついて、やっと楽しくなるのに、その可能性を自ら閉じている状態です。これでは学生だけでなく教員も不幸です。そんなときにシミュレータを使って、基礎理論の段階から把握していれば、その先の講義でも興味を持って聞くことができるのではないでしょうか?もちろん、シミュレータを自分で操作することによって、好奇心が満たされるモノと考えています。

そのような場を提供するのがMeSHです。このように書くと、「e-Learningがあれば授業が不要になるの?」と勘違いされるので書いておきますが、MeSHの主体はあくまで対面式の授業です。授業を主軸に据えて、その内容を体験的に学習する場、授業内容を繰り返し学習する場がMeSHの目指す所です。

いわゆる学習サイクルは、以下のように定義されています。
  • 対面授業
  • 自学自習
  • 質疑応答
ここにMeSHを取り込むことにより、対面授業を補助し、心ゆくまで授業内容を確認しながらシミュレータで仮想実験でき、それでも分からない箇所は(分からない箇所がはっきりしているので)質問をしやすい、という形でサイクルがうまく回ります。

長くなりましたので、本日はここまでにしておきます。 このエントリーをはてなブックマークに追加

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